眼の色が変わる「医療管理システム構築手法」

 目の色が変わる「医療管理システム構築手法」PDF版

目次
はじめに
1.エッ!問題点は宝物ですか?…時代が求める医療管理システムの構築
2.問題点の85%は仕組みの未完成にあり!
3.2年間で問題点の90%解消
4.全員参加で仕組みの見直し・構築
5.「意識・役割・仕組み」の3つのリンケージがポイント
6.“百聞は一見に如かず”…役割を樽に観ると
7.研修レポートにみる職員の意識の変化
8.全員参加で仕組みの見直し構築を図る
9.透析管理システムを事例として
10.危機管理度の明確化 ~赤・黄・青の信号~
11.プロセス管理とはなにか?
12.仕組みづくりの流れとは
13.ISO9001は私たちで取得する
14.医療の質とは診療行為の質、提供体制の質、職員の質である
15.職員の意識改革と医療サービス向上の結果はいかに
はじめに
 今回は、弊社の「医療管理システム構築手法のご案内」をさせていただきます。
医療業界は国の財政悪化により大変厳しい経営環境を迎えております。この厳しい経営環境をいかにして乗り切るかが、院長先生を始め、経営者の皆様方に課せられた大変大きな課題となっております。
 この課題を解消するためには時代が求める仕組みを構築することが不可欠でありますが、ここで重要となるのが仕組みを構築するプロセスにあります。仕組みを構築することに対し全職員が参加し、問題点と仕組みを理解し、見直し、改善していくというプロセスこそがシステムを支える根幹となります。
 弊社のコンサルティングの二本の柱は「職員の意識改革」「医療管理システム」の構築です。弊社の今までに経験した病院の活性化から、特に次の点が重要であることが分かってきました。一つ目は「経営層における活性化を何が何でも成功させるという“覚悟”が必要であるということ」、二つ目には「病院職員全員が地域住民から信頼される病院になることの重要性を“認識”すること」です。現実として活性化に取り組んでみると、大きな壁となるのが医師とのコミュニケーションです。医師、看護師、その他病院職員全員の協力なくしては医療管理システムの構築は決してうまくいきません。 この「覚悟」と「認識」があってこその活性化になります。
 活性化の大きな効果としては、直接的には次の三つの点が挙げられます。一つ目には、「職員全員がチーム医療の重要性を実感したこと」、二つ目には「全職員の手による現場に即した医療管理システムの構築がされたこと」、三つ目には「医療管理システムに裏付けられた安全が患者さんの安心感を生みだしたこと」です。また、弊社が取り組んだ久美愛厚生病院(岐阜県高山市)ではそれに伴って病院経営においても大きな効 果が表れました。一つは「利用される患者さんからの評価が上がったこと」、二つには「部門によっては医師不足が見られますが、全体的には看護師・医師不足の問題が解消 したこと」です。その結果、久美愛厚生病院は、飛騨地域の基幹病院となり地域医療を リードする存在になっています。
 弊社の考える活性化とは、まず自分自身が変わることから始まります。自分自身が変わってこそ、他者からの評価が変わり、そこに信頼が生まれ、他者自身をも変えることが出来ます。是非このセミナーに職員の方を参加させていただきますよう、ご案内とお願いを申し上げます。
株式会社 飛泉
代表取締役 下裏祐司

「他人が自分を変えるのではなく、自分が自らを変えていくこと」

「他人を変えることはできない。しかし、己が変わることで他人は変わる」



1.エッ!問題点は宝物ですか? …時代が求める医療管理システムの構築
 このセミナーでは時代が求める病院に脱皮するために「職員の意識改革・医療管理システムの構築プロセス」を中心に説明を致します。時代が大きく変化していけば、当然そこには時代とのミスマッチのシステムが発生してきます。それが問題点となり、職員の意識・患者の信頼・医療の質の低下を招くことになります。しかし多くの場合、問題点は邪魔物(ゴミ)として嫌がられています。しかしそれが宝物なのです。弊社の活性化法の最大の特徴はこの「ゴミと思われている問題点を宝物に変えること」「時代が求める仕組みを構築し、継続的に改善が出来ること」です。
2.問題点の93%は仕組みの未完成にあり!
 弊社の病院活性化では、まず全職員で問題点を抽出・分類作業を行い、「組織・意識・仕組み」に大分類していただきます。するとその93%が仕組みに分類され、「エッ!問題点の93%は仕組みですか?」と驚きの声が上がります。弊社が活性化に取り組んだ久美愛厚生病院(岐阜県高山市)では、2年後に当初出された問題点の90%が解消し、業績向上にも大きく貢献しています。
3.2年間で問題点の90%解消
 久美愛厚生病院(岐阜県高山市)において、第1回全職員研修で出された1391件の問題点は、2年後に90%が解消されました。なぜ解消されたのか?その最大の要因は仕組みの見直しと新規の仕組みが構築されたからです。
 この問題点は日々発生しており、この問題点の多くは仕組みの不備にあります。その仕組みを見直し継続的に改善していくことで、新たな問題点も解消されていきます。久美愛厚生病院においては毎月1回管理責任者会議が開催され、各部門から見直した仕組みの報告がされ、情報の共有化が図られます。このように常に問題点を発掘し、仕組みの見直しを図ることで患者満足度の向上に大きく貢献することになります。
4.全員参加で仕組みの見直し・構築
 仕組みは全員が使用するものであり、その仕組みの見直しには全員参加することが重要です。そして、その仕組みを全員が共有しなければなりません。弊社が活性化に取り組んだ病院では、医師1人、看護師6人、技師2人、事務担当1人の10人で30チームつくり、仕組みの見直しを行いました。この仕組みの見直し作業が、チーム医療を確立させたと言っても過言ではありません。
 チームに分かれ、全員で仕組みの構築に取りかかりますと、1~2回は医師指導で進みますが、3回4回と回を重ねるごとに、チームの雰囲気は大きく変わっていきます。医師に遠慮気味にしていた看護師や技師も各プロセスの内容や責任分担になると「先生!私達の話も聞いてください。」などと以前では考えられなかった程、多くの意見が飛びかいます。参加したある医師からは「これが本当のチーム医療ですね。本当にすばらしいことです。」との言葉も発せられます。
5.「意識・役割・仕組み」の3つのリンケージがポイント
 活性化を行う最大の目的は収益体質の強化であり、それを叶えるには上の図の通り、「意識改革」「役割の自覚」「仕組みづくり」です。弊社では、“百聞は一見に如かず”と言われるように、意識改革・役割の自覚・仕組みづくりを稲・樽として形で見ることで、その理解力は何倍・何十倍となります。
6.“百聞は一見に如かず”…役割を樽に観ると
  “樽は人間が生み出した最高の傑作”と言われます。この樽を弊社では「自己・役割・仕組み」に例え、それらを構成する要素の関係を立体的に分かりやすくし、樽式活性化法を考案いたしました。この樽式活性化法の最大の特徴は「百聞は一見に如かず」と言われるように、「自己・役割・仕組み」を樽という形で見ることで、その理解力が何倍、何十倍にもなることです。特に職員全員が樽という目に見えるものを通して、情報を共有化することが意識改革、仕組みづくりを進める上で大きな推進力になります。
 上図の“役割の樽”は、組織におけるそれぞれの役割を、樽の各部品になぞって説明しています。この樽役割活性化では、自分の役割を樽から視覚的に知ることで、常にその役割を果たしているかを考える職員が増加していきます。
7.研修レポートにみる職員の意識の変化
 ここでご紹介するのは、研修を受講された方の研修レポートです。
 これらの研修レポートの内容から言えることは、研修で自らの仕事内容を見直し、仕組みを構築していく過程の中で、自身に何らかの『気づき』が生まれるということです。更にこの『気づき』から、“チーム医療の大切さ”“もっと病院を良くしよう”“患者さんにもっと満足してもらおう”という意識が生まれるのです。
■もっと私たちの病院を良い病院にしたい
 誰かがつくった仕組みを用いようとしても、それは適切に有効に用いることができないことが分かった。職員一人ひとりが考え、意見を言い合い、自分たちで使った仕組みを用いれば必ず働きやすい職場をつくることができることを学んだ。なぜ職員全員が研修に参加しなければならないのかということが理解でき、そして積極的に参加することで、もっと私たちの病院を良い病院にしたいという意識を持つことができたため良かった。
 今回の研修では、ポストイットを使用したことで視覚的に職員それぞれの意見を見ることができ、考えることができたため良かった。自分が変わることで他人を変えられることも分かった。

■尿器に愛着が生まれた
 私のグループでは、尿器の管理についてやっています。この尿器についての話し合いをするようになってから尿器に愛着が湧き、きれいに使おう、大切に使おうという意識が以前より大きくなった気がします。
 また、患者さんのところに持って行く時も、黄色く変色したようなものは避けたりと、自然に意識していることに気が付きます。
 色々なグループが、色々なことをこうして考えて変えていっているわけなので、みんなの意識が少しづつでも変われば、それが大きな意識になって、病院が良い方向に変わっていくのだと思いました。
 また、グループ内での雰囲気も良くて、私のような下の人間も意見を自由に言えるので、過ごしやすいです。
8.全員参加で仕組みの見直し構築を図る
 全員参加で仕組みの構築を開始した理由は、仕組みは全員が使用するものであり、その仕組みを全員が共有しなければならないという観点に基づいています。
 問題点を抽出し、組織・意識・仕組みに3分類しますと仕組みが93%になりました。ここで全員が気づいたことは、「問題点は自分たちで解決しなければ解決されないという共有認識を図ることが出来た」ということです。このことから全員参加で仕組みを構築することになりました。これを実行するには、まずチームの編成とリーダーの養成が不可欠であり、チーム研修に先駆けて幹部研修においてリーダーの養成を行いました。 
 各チームからは色々な質問事項が出されることから質問表を作成し、それに基づき担当者が回答する仕組みとしました。この全職員研修において医師の取り組みが一番心配されましたが、その心配は「案ずるより産むが易し」の諺通り、大変協力的でした。
 この全職員研修を通して、医師・看護師・コメディカル部門の職員とのコミュニケーションが図られ、最大の課題であったチーム医療体制が整いました。

1)幹部研修 ・・・問題点を分析し、仕組みづくりの基礎をつくる
 この研修には、主任クラスの方を中心に30名で構成されました。この研修期間は約2ヶ月間で、その内容は全職員研修で出された問題点の調査・分析と、チーム研修でチームリーダーとしてチームを引っ張っていくための仕組みづくりの基礎学習でした。まず、全社員研修で出された3千件以上の問題点の調査・分析に入りました。同じ問題を整理することに始まり、組織・意識・仕組みの分類、外来・病棟・共通などの部門の分類とその作業は、並大抵のことではありませんでした。始めのうちは何から手を付けて良いのか、全員が頭をかかえていましたが、問題分析手法を習得することで、そのスピードは大幅にアップし、全員の眼が輝いてきました。
 この問題点の分類には、約1ヶ月半を要しました。そして、この問題点は仕組みをつくることで、大部分が解決することを参加者全員が理解することで、研修の流れは大きく変わりました。
 チーム研修のリーダーとなるためには、まずしっかりと仕組みづくりの手法をマスターしなければ、チームメンバーを指導し、引っ張っていくことができません。これからリーダーとなるその責任感が参加者全員の意識を変えました。リーダーとなれば、医局・看護部などの部門を問わず、全ての部門の人がメンバーであり、同時に今まで担当したことのない業務の仕組みもつくり上げていかなければならないのです。
 今まで味わったことのない危機感が参加者全員に見られましたが、この危機感こそ知識を知恵として活かせる力に繋がったと考えます。

2) チーム研修 ・・・全員が参加し、仕組みづくりを行う
 幹部研修で仕組みづくりを学習したチームリーダーの方を中心に、仕組みづくりが始まりました。そのメンバーは、医師1名、看護師6名、技師2名、事務1名で構成しました。初回は医師に遠慮してか、どのチームも言葉少なめでしたが、2回、3回と回を重ねる内に、医師も看護師も全ての参加者が一体となって仕組みづくりに取り組んでいただけるようになりました。
 ある医師は「この研修は本当に勉強になります。看護師は看護師として、技師は技師として、それぞれしっかりとした考え方を持っており、それを今まで活かすことができていなかったことに気づいたことです。私の医師としての過信でした。」と言われました。
 この先生の言葉は、医療業界が抱えている課題を切り拓く大きな鍵ではないでしょうか。病院の場合、その多くが国家資格者であり、それぞれの責任で業務をこなしていかなければなりません。それは時として人間関係に壁を作ってしまっているのではないでしょうか。
 仕組みづくりというチーム研修を通じて、心が通い合います。この面からも、このチーム研修は大変有効であったと考えます。  
9.透析管理システムを事例として
  次の表の仕組みは、透析を管理するためのシステムです。
 この透析の管理は、危険度が大変高く、危険度№は1となっていますが、これを目で見える形とするために、危険度が高いシステムは赤、危険度が中程度のシステムは黄、危険度が低いシステムは青の三色の紙に印刷されています。正に信号機そのものです。この危険度別に色分けすることで新人・中途採用者などの教育に大変役に立ちます。特に新人教育の場合、赤色のシステムについては、十分に注意して業務にあたるよう指導できます。
 又チェック必須項目の●印は大変危険度が高いプロセスのことです。この危険度が高いプロセスの段階で業務を行う時は特に注意するよう指導されています。クレーム・ミスが発生した場合、発生したプロセスが●印であれば院長以下経営層に報告される仕組みとなっており、スムーズな対応ができるようになっております。特に医療業界は、各プロセスが人の命に関わることが多く、最大の注意を払うことが必要です。
 このようなシステムを構築することで、クレーム・ミスも初期段階で防ぐことができ、医療機関に厳しい眼が向けられている今、その信用維持に大きく貢献します
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10.危機管理度の明確化 ~赤・黄・青の信号~
 仕組みづくりのポイントとして、危機管理度の明確化があります。危機管理度とは、仕組みの重要度を表したものであり、次の①~③にレベルを順位付けすることができます。


①重度・・・院内では処理不可能で社会的責任を問われる事項
②中度・・・概ね院内で処理可能であるが重度に発展する可能性のある事項
③軽度・・・院内で処理可能であり、社会的責任を問われない事項


 更に、この①~③のレベルを医療関連、医療支援、病院基幹、情報収集・調査・分析、購買管理、文書管理、教育関連、総務関連の8 つの区分に割り当て、特に重要度の高い医療関連、医療支援についての仕組みには、一目でそのレベルが分かるように、赤・黄・青の信号に見立てた紙色で、その危機管理度を明確化します。
 久美愛厚生病院ではこの方法を活用し、日々危機管理に努めてみえます。

 1)ミス・クレーム発生時の対応、防止等の明確化
 前表の「透析管理プロセス」にもあるように各管理システムには、「ミス・クレーム発生時の対応等」と「ミス・クレームの防止等」の欄を設けました。この欄には各プロセスで発生するミス・クレームに対してその対応策と防止策が書かれています。この欄は新人職員にとってどのプロセスでミス・クレームが発生するのか、その場合どう対応すべきなのかが明確となり、一番多く発生するという新人によるミス・クレームの発生防止に大きく役立っております。
 インシデントレポートをプロセスごとに集計し、どこにおける活動にミス・クレームがひそんでいるかを分析することができます。これによりミス・クレームの防止とインシデントレポートの活用が期待できます。

 2)危機管理分類表
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11.プロセス管理とはなにか?
■プロセスの明確化が医療事故防止・業務の効率化に繋がる
 プロセス管理の基本は、何かの仕事がスタートから完了までどのような流れをたどるのか。流れの単位(プロセス)のつながりを描き、そこに何らかの問題が含まれていないかどうかを確認したり、新しいプロセスが必要になった場合にできるだけ他のプロセスに影響を与えないように流れに挿入するなど、変更や再利用をしながら常に現状を把握し、効率を高める方向に流れを最適化していくことといえます。
 プロセス管理とはどのようなものであるかを考えるのに、「伝言ゲーム」を使うとよく分かります。「伝言ゲーム」は何人かの人々に口頭で文章を伝えていき、最初に伝える人と最後に伝え聞いた人とその伝言内容を比べ、その正確性を競うゲームであるとともに、どれだけ狂ってしまうかを楽しむゲームです。このときの伝言内容がインプット・アウトプットと捉えます。
 伝言操作自体がプロセスになります。このとき、誰を先頭にし、どの順に人を並べ、最後は誰にするのかを考えるのがプロセスの順序になります。ここでの間違いはゲームでかなり不利になってしまうことはお分かりだと思います。そして、伝達する内容をいかに正確にするかがポイントになります。これがインプット・アウトプットの管理です。ゲームでなければ、正確に伝わるまで何回も復唱させる、文書で伝えるなどの方法が取られます。
 更にゲームのルールを伝えるのにも文書にした場合、その効果は大きくなることが分かると思います。それは、自分がゲームの進行係になったときを考えてください。伝えるべきルールに漏れがないかの確認には、やはり文書が有効です。
 又、問題が発生した時、それがどのプロセスで起きたことなのか、原因を追及していく場合にも文書にしておくことは大変有効です。



 さらに説明すれば、仕組み(システム)とは、目的地に行くための地図(経路)に例えることができます。この地図(経路)がしっかりと把握されていれば速く、間違いなく、時間通りに目的地に到達することができます。

 しかし現実には、日本の多くの組織でこの地図(システム)が整備されていないのが現状です。
 その最大の理由が、目的地までの道程(プロセス)を文書化するという考え方が今まで無かったからです。「文書化しなくてもできる」という主観的な考え方が定着していたからです。確かに文書化しなくてもできますが、「管理」という場合では不足することになります。
では、これから目的地へ行くための地図を例としてプロセス管理を説明いたします。



 ①、②は交差点です。この交差点は道路が交わるところであり、プロセスネットワークといわれるところです。例えば、「医療サービス管理システム」とした場合、①は「受付」というプロセスであれば、「受付プロセス」が交わる、②は「患者の主訴・把握・診断」というプロセスであれば、「患者の主訴・把握・診断プロセス」が交わることとなります。
 ③の橋は、川が下を流れていることから、いつ大雨が降り、大洪水が発生し、橋が流されてしまうかもしれません。このようにこの橋は目的地へ行くためのキーポイントです。「医療サービス管理システム」の中でいえば、この橋は「診療計画」というプロセスとして捉えることができます。水量を情報量とした場合、その水量に応じた強度の橋としなければなりません。診療計画も同様に情報量が多い(難易度が高いなど)場合、その計画の完成度は高くしなければなりません。


 ④の急カーブは事故が発生する可能性が高いところであり、「医療サービス管理システム」では、採血・注射・処置などミス・事故の発生率が高いプロセスのところです。細心の注意を要するところです。
 ⑤のトンネルは妥当性の確認が必要となる手術などです。トンネル内で事故が発生すれば、逃げ場がないため大事故になる可能性があります。
 ⑥は踏み切りです。①、②の交差点の信号は青であれば、止まらず通り抜けることができます。しかし、踏み切りは一旦停止しなければなりません。このことからこの踏切を「変更」というプロセスとして捉えました。踏切ではいつ列車が来るか分かりません。このことを「医療サービス管理システム」の「変更のプロセス」として捉えれば、患者の病状の推移(変更)はいつ発生するかわからないということです。この変更をしっかりと理解し、対応しなければ、トラブルの要因となり、収益性に大きな影響を及ぼすことになります。
12.仕組みづくりの流れとは
 この活性化の大きなウエイトを占めるものが、仕組みづくりになりますので、ここで仕組みづくりの流れを説明させていただきます。

■仕組みの構築法
 実際に仕組みを構築するには、そのプロセスが必要です。仕組みを構築する主たるプロセスの概要は次のようになります。

1)問題点の抽出
 弊社では、問題点の質が仕組みの質を決定づけると考えております。この生の声を聞くことができなければ仕組みの質が下がることとなり、業務の効率化・収益体質の強化にも大きく影響します。
 全職員研修で職員全員が参加し、問題点を抽出するのが一番理想的です。その理由は、コンサルタントが入ることで、普段は言えないような問題点を出すことに対する不安感が薄れ、生の声を聞くことができるからです。
 この問題点の抽出は何を目的に行うのかを最初にしっかりと伝達しなければなりません。時として問題点だけを抽出し、それを解決しないために職場内の和をも崩壊してしまうような事も発生しております。このようなことを防止するためには目的の明確化は必要不可欠です。

2)問題点の分析
 (1)問題点の分類

 全職員から抽出された問題点は、同じ内容のものがたくさん含まれています。まず、全く同じ問題を一つのものに整理をしていきます。
 次に整理された問題点を「組織・意識・仕組み」の3つに分類します。この時、注意すべき点は、組織・意識の問題点は仕組みとして解決することができないかを重点的に考え、なるべく組織・意識の問題点は最小限に抑えることです。その目安としては、問題点の総数に対して組織が2%、意識が5%、仕組みが93%の割合です。
 さらに「仕組み」に分類された問題を同種の項目ごとに分類、また、部門別・部門間共通などに分類していきます。
 この分類は、職員全員で行い問題点の共有化を図ることが理想ですが、現実としてそれは時間的に不可能です。第1回の全職員研修においては細部に亘る分類は行わず「組織・意識・仕組み」の3つに分類することだけとします。この3分類された問題点を検証し、内容の検証までも行うことが必要です。その作業は主任以上の研修において行います。時として出された問題点の内容が不明確であることから削除される件が多々ありますが、その中に大変重要なものも有り、慎重に対応することが重要です。
 (2)仕組みの特定
 調査結果を踏まえて、この問題点は、どのような仕組みを構築すればよいのかを明確にします。この時、注意すべき点は、問題点が部門別か部門間で共有しているのかをしっかりと見極めることです。これがされていないと、重複した仕組みが構築される可能性が高く、時間と労力の無駄が発生してしまいます。
 正に「設計が製品の質を決める」と言われる通り、この問題点の分析と管理システム構築準備は病院の仕組みの設計図を作成することです。この問題点の分析度が仕組みの完成度を左右することとなりかねません。この作業は大変重要な作業で、主任以上の管理者によって行います。
 (3)既存の仕組み調査
 既存の仕組みを調査する方法は、各部門から使用中の手順書などを一覧方式で提出させることです。提出書類の検証として、部門長とのヒアリングを行い、再確認します。
 注意すべき点は、活用されている仕組みか、あるいは形だけの仕組みかを明確に分類することです。この分類がしっかりとできていないと新しく構築する仕組みと重複し、業務の効率低下を招きます。この既存の仕組み調査も主任以上の管理者が中心となります。
 (4)優先順位の設定
 構築すべき仕組みに優先順位をつけます。この優先順位は重要度が高くても設備などの投資が必要であったり、難易度が高いものについては、順位を下げたり、別管理したりする方法を取ります。医療機関においては、問題点が複雑であることから、この調査は慎重に行わなければなりません。
3)構築の仕組み配分
 新しく構築すべき仕組みが明確になったところで、それを各チームに配分します。
 配分の時、注意すべき点は、メンバーの仕組みへの関連度に基づいて配分することです。関連度が低い、又は関連しないチームが構築を担当しても仕組みの完成度は低いものになり、時間的にも非効率となります。このことから、チームメンバーの編成も慎重に行わなければなりません。
4)仕組みの構築
 仕組みづくりはチームリーダーが中心となって行います。その手法の柱となるのがポストイットです。ポストイットを使用することで、メンバー全員が参加でき、同時に情報の共有化を図ることができます。
 まずは関連している仕組みの有無を調べることです。この調査で関連している仕組みがあればそれを部分的にでも活用することができ、効率的に構築することができます。仕組みづくりのポイントは「仕組みを構成するプロセスの明確化」です。このプロセスを理解することで、プロセス重視の考え方が定着し、クレーム・ミスの防止・減少に大きく貢献します。この全員参加による仕組み作りにより、組織ピラミッドも次のように変化していきます。
5)仕組みの稟議
 チームごとで構築された仕組みは稟議書を作成し、稟議します。稟議書には必ずリーダーがコメントし、該当する部門長はもちろんのこと、看護部長、事務局長、院長などの経営者層も必ずコメントを入れるようにします。このコメントを入れることで、チームメンバーのヤル気が増加します。ここで注意すべき点は、「承認する側で最初から百点満点を望まないこと」です。その理由は、次のプリテストでの評価から仕組みの不備に対する反省と改善が行われ、仕組みを構築したメンバーの成長へとつながるからです。
6)プリテスト
 承認された仕組みは、試用期間を設けてプリテストを行います。このプリテストでは、プロセスが現実のプロセスとマッチしているか、使いやすいかなどの点から調査します。このプリテストが曖昧に終わると本格運用で大きな問題を引き起こす可能性が高くなりますので注意が必要です。
7)本格運用開始
 プリテストから本格運用までには、最低1ヵ月間は必要です。本格運用されても常にPDCA(計画・実施・検証・改善)サイクルを回転させることが必要であり、この回転が継続的改善です。
13.ISO9001は私たちで取得する
  医療機関のマネジメントシステムにおける有効なツールには「病院機能評価」と「ISO9001」があります。久美愛厚生病院では「ISO9001」を選択しました。「病院機能評価」は、専門性に優れ、要求事項が明確です。また、導入・維持コスト面でも有利といえます。一方、「ISO9001」は、マネジメントシステムを継続的改善していこうとするものであり、管理面及び全職員への活動の浸透が図りやすいところが優れています。また、システム(仕組み)は自ら構築していくもので柔軟性に優れています。
 久美愛厚生病院では管理責任者は師長、技師長クラスの方が中心となり、約30名で構成されました。この管理責任者チームは「医療サービスマネジメントシステム構築チーム」と「文書管理システム構築チーム」と「プロセス管理チーム」の3チームで、ISO9001の要求事項に基づく体系作りを行いました。
 どのチームもたくさんの書類に当初は、何から手を付けてよいのか、ただ戸惑ってみえるばかりでした。しかし、これも樽仕組み活性化法の手法をマスターすることで、そのスピードは大きくアップし、予定通り、活性化開始から2年後にISO9001を認証取得することができました。
 医療業界は、誠に複雑な組織です。同時に「人の命を預かる」という大変大きな使命があり、医療事故は決して起こしてはなりません。医療事故を防ぐにはチーム医療が重要であり、そのために医師を中心にした職員相互の輪(和)以外ないと考え、医師・看護師・技師などの10 人で30 チーム編成し、各種管理システムの構築、見直しを行いました。この活動はISO9001を取得、維持していく上でも大きな財産となりました。
 この病院の活性化・ISO9001 認証取得が出来た最大の要因は院長、事務局長、看護部長などの上層部の方々の全面的な協力と各部門長をはじめ全職員の方々が一体となって取り組まれた結果です。
 このように時間はかかりましたが、その効果は継続的に続き、昨年2 月、2 回目の更新審査が終了しました実際の医療の場で活きた改善活動としてISO9001が利用されており、審査機関のみならず、職員の方自らもその重要性が認識されています。

14.医療の質とは診療行為の質、提供体制の質、職員の質である
新版品質保証ガイドブック(日本品質管理学会編)には、医療分野における品質保証の特徴を次のように示しています。

 医療は準委託契約であり、保証すべき対象は治療の結果ではなく、提供する医療そのもの、すなわちプロセスの適切性である。ただし、不適切な医療に起因する望ましくない結果、すなわち合併症や死亡については、責任が問われる。
 医療の質とは、診療行為の質、提供体制(組織管理)の質、職員の質である。医療における質保証とは、それらすべての質を保証することである。


 医療における品質保証の具体的活動では、そのプロセスが適切であるかどうかという観点が必要になります。それは患者の望むものが治療の結果だけではなく、医療サービスのプロセスにも望むものがあるという認識を持たなければならないことを表します。当然のことのように思われますが、実際にはそのプロセスが管理されていなければ、患者の望むべきものが提供されているかどかを監視することも難しいものです。
 医療の質を保証することによって、患者からの信頼を得ることになります。それはISO9001の求める患者満足度の向上というものです。この患者満足度の向上が利益体質の強化につながるものであるのは当然のことです。この医療の質を支えているものに職員の質があります。職員の教育・研修を行い、意識改革を行うことで職員の質を向上させていくことが必要であるといえます。
 そして、病院全体としての医療の質保証の体制を構築していくことが、患者からの信頼を勝ち取っていくことになります。活性化と医療管理システムの構築の導入は必然であるといえます。
 動機は十分にあります。活性化をしなければならないという考えもまちがいありません。この土台の上に弊社の仕組みづくりの技術(方法論・知識)と医療管理システム(マネジメントシステム)、全職員の力という3つの柱が立てば、必ず大きな推進力となります。
15.職員の意識改革と医療サービス向上の結果はいかに
  この活性化研修で行った職員の意識改革と医療管理システムの見直しなどの結果として、次の様な大きな効果が見られました。

1)地域の住民から信用されるようになったこと
 この久美愛厚生病院(病床数319 床、職員数377 名)のエリア人口は12万人で、この中には同市内に日赤病院があります。活性化研修に取り組む前は、設備的にも医療サービス面においても日赤病院の方が評判がよく、そのため久美愛厚生病院への外来患者数も少なく、ベッドの稼働率も厳しいものでした。
 しかし活性化研修が進み、平成16年3月のISO9001を取得する頃には、その状況は好転していました。そして、平成24 年6月には中部縦貫道の高山インターの近くに新病院がオープンする予定です。この結果飛騨地方の医療課題は大きく改善されていくものと考えます。

2)看護師など専門職の確保が十分に出来るようになったこと
 活性化が始まる以前は、看護婦など専職の確保が難しく、10 対1 看護も厳しいものでした。それが活性化研修が進む中で看護婦の確保が順調に進むようになり、7対1 看護も平成18年には整いました。現在は看護師をはじめ専門職の不足は解消しております。医師については、医師不足と言う時代を反映して厳しいものがありますが、同院の医療管理システムに興味を持ちこのシステムを学びたいと言う医師もみえます。この二つの効果は、お金には代えがたい信用と職員の確保につながりました。

3)三位一体体制が整ったこと
 この活性化研修を通しての最大の効果は、下記の図の通り「職員の意識改革」、「仕組みの完成度向上」、「組織力の強化」という3 本の柱がリンクする事で医療環境の充実化が図られ、その結果として地域住民の信用を得、地域での中核病院となりました。今回、新病院をオープンされるように収益的にも改善されました。医療をとりまく厳しい経営環境の中にあっても、時代が求める医療管理システムを構築し、継続的改善を進めることでより発展されるものと確信しております。